きょう憲法記念日 平和主義世界に訴える時だ
2026年5月3日 北海道新聞
大国の蛮行が世界を激しく揺さぶる中、施行からきょうで79年の憲法記念日を迎えた。公布からは80年の節目の年である。米国はベネズエラに続きイランを先制攻撃し、ロシアはウクライナ侵攻をやめない。
いずれも世界の平和と安全に責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国だ。その両国が国際法に違反して秩序を破壊する、悪夢のような現実に直面している。日本は、世界は、この先どうなるのか。誰もが不安に思うのも無理はない。
防衛力を大幅に増強して攻められないようにせよ、との主張が一方にある。高市早苗首相率いる自民党は、戦争放棄を定めた憲法9条などの改憲に向けた政治日程を盛んに語る。だが力に力で対抗することが本当に抑止力になるのか。かえって対立を深めて軍拡競争に陥り偶発的衝突の危険性も増す。
平和を希求する憲法の理念が今ほど重要な時はない。この普遍的な価値を実現させるべく、世界に訴えていく時だ。
■派遣阻んだ9条の力
中東情勢への関わり方は憲法に直結する。3月の日米首脳会談で、トランプ大統領がホルムズ海峡への艦船派遣を求めたのに対し、首相は憲法を含め法律の制約があるとして断った。 9条は武力による国際紛争の解決を禁じている。違憲の疑いが濃い安全保障法制でさえ自衛隊を派遣するには、国際法が順守された状況を前提にする。
だが米国によるイラン攻撃は国際法違反が明白だ。9条の重みを改めて示したと言える。「戦争反対」「憲法守れ」。今、札幌など全国にデモが広がっている。先月19日には国会前に3万6千人が集まった。初参加の若い世代や女性も目立つ。
北海道新聞社による道民意識調査では、9条を「改正すべきではない」が47%で「改正すべきだ」24%のほぼ2倍だ。昨年より差は広がっている。改憲に前のめりな政治に危機感は強まっている。ところが首相は自民党大会で「時は来た」と、9条を含めた改憲に強い意欲を示した。来春までに改憲発議のめどをつけたいという。
衆院は与党で発議可能な3分の2議席以上を占める。参院は少数与党だが改憲志向の野党も少なくない。国会の勢力だけを見れば改憲は現実味を帯びる。しかし国民は戦争に巻き込まれないための歯止めとして、9条への信頼を高めている。平和主義を損なってはならない。
■協調し大国いさめよ
憲法の平和主義を担保する象徴的な政策は「武器輸出三原則」と「非核三原則」だった。ところが高市政権は殺傷能力のある武器輸出を全面解禁した。非核三原則も与党内で見直しを含め議論されている。
平和主義の空洞化に拍車がかかる。首相は「平和国家として歩んできた基本理念を堅持する」と語るが、説得力を欠く。原点から考えたい。80年前の6月、憲法の政府草案が帝国議会に出され議論が本格化した。
ここで9条に重要な修正がなされた。主導したのは戦後初の衆院選で社会党の議員になった法学者、鈴木義男である。政府案の9条に「戦争放棄」と「戦力不保持」は記されていたが、これだけでは「消極的な印象を与えるから、先(ま)ず平和を愛好するのだと云(い)うことを宣言して置いて、その次にこの条文を入れようじゃないか」(小委員会速記録)と主張した。
日本には積極的に世界平和を実現する使命がある、国連に参加して力を尽くせ。戦前から国際協調を唱えた鈴木の訴えは、保守系を含め広く賛同を得た。こうして「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」と盛り込まれた。
鈴木の理想を今に生かすなら民主主義の理念を共有するミドルパワー(中堅諸国)と結束して大国の専横をいさめる。それが平和国家にほかなるまい。
■立憲主義の尊重こそ
国家権力を制限し乱用を防ぐのが憲法の役割であり、立憲主義の原則だ。99条は閣僚や国会議員には憲法を尊重し擁護する義務があると定める。だが首相は規範を重んじる姿勢が希薄に見える。実現に意欲を示すスパイ防止法などは、憲法が保障する表現や報道の自由を制約する恐れがある。国会で徹底審議が欠かせないが、首相は論戦を避ける姿勢が際立つ。
「数の力」があるから国会審議を軽視するのだろう。だが63条は首相に答弁のための出席を義務づけている。そもそも先の解散に大義はなく権力の乱用ではないかとの指摘が根強い。 衆院の憲法審査会では与党が緊急事態条項の創設案提出を急ぐ。
大規模災害時などに議員の任期を延長することや政府に権限を集中させて人権の制限を可能にする内容だ。独ナチス政権が独裁体制を敷いて戦争に突入する際に利用した条項である。 緊急事態条項であれ9条改定であれ戦争を近づける。過ちを二度と繰り返してはならない。
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