長生炭鉱の遺骨 調査と返還 国の責任で


2026
217日北海道新聞


戦時下の1942年に山口県宇部市の海底炭鉱「長生(ちょうせい)炭鉱」で発生した水没事故によって、犠牲となった183人の遺骨を故郷に返還しようと地元の市民団体が活動を続けている。

 
犠牲者の7割を朝鮮人労働者が占めた。団体は30年以上前から国に対応を求めてきたが反応が鈍く、独自に潜水調査を始めた。国内外から高度な潜水技術を持つ人が協力するなど支援の輪が広がり、昨夏には初めて海底で人骨を発見し、収容した。

 
今月、調査に参加した台湾人男性ダイバーが溺死した。極めて残念だ。調査は犠牲者の尊厳を守り、事故を語り継ぐ上で意義がある一方、市民団体だけで行うには負担が重すぎることも浮き彫りになった。

 
事故は戦争遂行のため石炭増産が国策で進められる中で起きた。遺骨の調査や収容、返還は国が責任を持って行うべきだ。
長生炭鉱では安全性を度外視した採掘が行われたとされ、事故では朝鮮人のほか福岡や沖縄の出身者ら日本人も死亡した。だが救助活動は行われず閉山にされ、遺骨は海底に放置され続けた。犠牲者や遺族の無念さ、悔しさは察するに余りある。

 
昨夏の人骨発見は宇部市に拠点を置く市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が資金を集め、韓国人ダイバーの協力を得て実現した。今月も新たな人骨を見つけた。複数人の遺骨が収容できる可能性がある。

 
戦時中は長生炭鉱をはじめ、北海道の炭鉱など各地の危険な現場に多くの朝鮮半島出身者が動員され、過酷な労働を強いられた。命を落とした人も多い。
そうした民間徴用者について政府は2004年、韓国から遺骨の返還を要請され、自治体などへの調査や返還に向けた取り組みを本格化させた。

 
ただ想定するのは寺院などで保管される遺骨だと説明し、長生炭鉱については「安全性への懸念を払拭できない」と述べるにとどまっていた。
不誠実というほかないが、昨年の人骨発見を機に変化の兆しも見える。先月の日韓首脳会談では、人骨の身元特定に向けたDNA型鑑定に協力することで一致した。厚生労働省は先月、潜水調査の安全性などを確認するため初めて現地を訪れた。

 
民間による地道な努力が国を動かしつつあると言える。
刻む会が潜水調査で得た情報やダイバーの死亡原因などを踏まえ、国は収容や返還の実現を図ってもらいたい。必要なのは主体的な関与だ。隣国との歴史の負の側面を直視しなければ、未来志向の発展は築けない。