通常国会閉会へ 難題先送り 覚悟が見えない


2025
621日北海道新聞

 
賛否が割れる懸案は議論を深めずに先送りする。それが少数与党国会に望まれた姿なのか。
 通常国会があす閉会する。昨年秋の衆院選で与党が過半数を割り、今国会は政策の中身や決定過程の変革、与野党による熟議が期待された。

 
だが、目立ったのは懸案の先送りと、野党が個別に「成果」を求めて与党に接近し、それを与党の数合わせに利用されるもたれ合いの構図だった。
開かれた場で与野党が議論を深めて国民の関心を喚起し、その声を反映させて一致点を見いだす。これが衆院選で示された民意だったはずだが、充実した国会審議にはほど遠かった。

 
急速な人口減少が進む国内で持続可能な地域づくりや社会保障制度はどうあるべきか。戦火が広がり、国際秩序が崩壊の危機にある世界で日本はどんな役割を果たせるのか-。そんな骨太の論戦は少なかった。

 
30年来の宿題である企業・団体献金見直しや選択的夫婦別姓制度導入も見送られた。期待外れと言わざるを得ない。
720日投開票予定の参院選で有権者は、各党が国会にどのような態度で臨んだのかも見極めて1票を投じたい。

■審議形骸化変わらず

 
政府の変わらぬ国会軽視を象徴しているのが、11日の党首討論のやりとりだ。
焦点の物価高対策を巡り、石破茂首相は1人当たり2万円の給付案について「政府として検討している事実はない」と否定した。ところが、2日後には一転して「自民党に検討を指示した」と記者団に表明した。

 
首相は物価高対策で具体的な手を打たず「無策」と批判され議員への10万円の商品券配布で庶民感覚とのずれも露呈した。
その挙げ句に、当初否定的だった現金給付を参院選対策として打ち出さざるを得なくなったのが実情だろう。消費税減税を含め何が有効な方策なのか、もっと議論を深めるべきだった。

 
与党は2024年度補正予算で国民民主党と日本維新の会を取り込み、25年度予算で維新、年金制度改革関連法は立憲民主党の賛成を個別に取り付けた。
国民民主の主張する年収103万円の壁引き上げ、維新の高校教育無償化、立憲の年金改革の財源確保は難航必至だが、精緻な議論は先送りされた。

 
ただ、与党が事前審査した法案を数の力で押し切っていた時代に比べれば、ほぼなかった法案の修正が2割に達したのは前進と言える。この流れを与党の数合わせや野党の手柄争いの次元に終わらせず、根本的課題を巡る熟議に発展させてほしい。

■懸案は残されたまま

 
懸案の企業・団体献金見直しと選択的夫婦別姓制度導入は、実現の可能性が高まったように見えた。企業・団体献金は派閥裏金事件を機に議論が始まり、与野党は当初3月末までに結論を出すことで合意していた。

 
だが存続前提の自民と、禁止法案を提出した立憲など野党5党派の歩み寄りはなく、規制強化を訴える国民民主と公明党は法案を最後まで出さなかった。
「政治とカネ」への不信が払拭されない中、禁止して企業との癒着を断ち切る好機を逃したのは言語道断だ。

 
選択的夫婦別姓も、賛否が割れることを避けたい自民や、足並みのそろわない野党の思惑が絡んで採決されなかった。
姓を変えるかどうかは個人の尊厳に関わる。いつまで自民内の反対派に配慮して導入を先送りするのか。推進論者だった首相をはじめ政治の責任は重い。コメ価格高騰は各党がこぞって取り上げたが、いまだに原因すら説明されていない。主食の生産基盤をどう守っていくのか、過去の農政の検証と将来像に関する議論が必要だ。

■野党の責任も大きい

 
与党の「一本釣り」に乗せられる形で、参院選に向けた独自色のアピールを繰り返した野党の対応は疑問だ。野党はこれまで内閣不信任決議案をほぼ毎年提出してきたが、議員数で提出権を持つ立憲は日米関税交渉や中東情勢を理由に見送った。

 
不信任案は衆院で野党が一致すれば可決できる。「政治空白をつくってはならない」との理屈は分かるが、本来は国民の目線で政権を信任できるかどうかの一点で考えるのが筋だ。
野田佳彦代表の判断には衆院選や政権を担う準備が整っていないことが背景にあろう。野党第1党としての覚悟と力量が足りず、提出見送りに追い込まれた側面は否めない。

 
一方、野党各党は会期末に衆院で財務金融委員長解任決議に加え、ガソリンなどの暫定税率廃止法案を可決したが、参院は与党が多数で法案成立は見通せない。本気で実現したいなら早い段階で動くべきだった。

 
自民党政治はさまざまな制度疲労が隠せなくなっている。代わりうる政権の選択肢を提示するのが野党の最大の責務だ。そのことを念頭に置いた参院選への戦略が求められる。