刑事デジタル法 捜査機関縛る仕組みを


2025
524日 北海道新聞

 
刑事手続きをIT化する改正刑事訴訟法など、いわゆる刑事デジタル法が成立した。
この中には、捜査機関が通信事業者や個人に電子データの提出を命令できる「電磁的記録提供命令」の創設が含まれる。

 
今、スマートフォンやサーバーなどには通信や移動の記録、閲覧や購入の履歴をはじめ膨大な個人情報が蓄積されている。
たとえ犯罪に関係がなくても、そうした情報が本人の知らないところで捜査機関に収集される懸念が拭えなくなる。その歯止め策も欠落している。

 
憲法が保障するプライバシーや通信の秘密が侵害される危険性と隣り合わせである。
捜査機関を厳格に縛るルールが欠かせない。国は速やかに構築に動くべきだ。刑事デジタル法は、情報通信技術を刑事手続きに生かす狙いで導入の検討が始まった。コロナ下で対面の回避が求められたことも後押しとなった。

 
令状や証拠書類などを電子化し、オンラインでやりとりできるようにしたのが柱となる。それらの取得に裁判所に出向いてきた警察官や弁護士の負担が軽減される面は確かにあろう。
 この検討過程で浮上したのが電磁的記録提供命令だ。

 
現在も捜査機関は事業者の電子データを媒体に記録して差し押さえることができる。
これに対し提供命令では、オンラインで大量のデータを迅速に得られるようになる。拒んだ場合の罰則もある。捜査機関の強制力が大きく増す。

 
大量の電子データの中から事件と関係のある情報だけを取り出すのは困難とみられる。国会では、収集情報の範囲が過大にならないかも論点となった。
法務省は「事案ごとに判断する」などと繰り返した。捜査に無関係な情報を当局が保持し、市民監視に使うのでは―との不安が高まるのももっともだ。

 
実際、岐阜県警大垣署は風力発電施設の建設に反対する住民の個人情報を、手法は定かでないが収集していた。昨年9月に名古屋高裁がそれを違法と断じ、その後判決は確定した。
デジタル技術を市民監視に使おうとする流れが強まる中、人権を守る手だてが一層強く求められていると言える。

 
提供命令の運用状況を独立機関などが監視し、情報の行き過ぎた収集や流用を防ぎ、不要な情報は消去させる。そうした仕組みを検討するのが国会の責務ではないか。
容疑者や被告と弁護士のオンライン接見の導入は見送られた。早期に実現すべきだ。