学術会議法案 廃案声明重く受け止めよ
2025年5月23日 北海道新聞
日本学術会議を国の特別機関から特殊法人に移行させる法案に対し、歴代会長6人が連名で廃案を求める声明を発表した。法案は参院で審議中だが、政府の関与が強まり会議の独立性が損なわれる懸念が改めて浮き彫りになった。政府は重く受け止め、立ち止まって法案の必要性から議論し直すべきだ。
法案には法人化される学術会議に対し、外部から関与できる仕組みが盛り込まれている。業務を首相任命の評価委員会や監事が検証するほか、会員の選考は外部の有識者による選定助言委員会が意見を述べる。
政府は「法人化で独立性が高まる」と主張するが、矛盾は明らかで、声明は会議を「首相の監督の下におくことが法案の狙いだ」と指摘した。科学者の代表機関が政府の意に沿う組織になれば、憲法が保障する「学問の自由」を脅かす。歴代会長は記者会見で「科学者の懸念に耳を貸さない政府の対応に大きな失望を感じる」と語った。法案をこのまま成立させてはならない。
学術会議は、戦前の科学者が政府の軍事研究に従事させられ、無謀な戦争に突き進んだ反省から生まれた。現行の学術会議法は「わが国の平和的復興に貢献する」「独立して職務を行う」と明記している。
ところが、今回の法案にこうした文言はない。法案に反対する野党は独立性尊重を盛り込むよう求めている。当然だろう。政府は金を出す以上、説明責任が必要だと関与を正当化するが、歴代会長は会見で「幾重にも監視を強め、コントロールしようとしている」と語った。
国会審議では坂井学内閣府特命担当相が「特定のイデオロギーや党派的な主張を繰り返す会員は今度の法案で解任できる」と述べた。もの言う会員を排除する意図が透ける。会議の「御用化」を許してはならない。
法案そのものの必要性も疑問だ。法人化には2020年当時の菅義偉首相による会員6人の任命拒否への批判をそらす狙いがあったと指摘されるからだ。会員の任命は1983年に中曽根康弘首相が「政府が行うのは形式的任命」と答弁し政府は会議の推薦通り任命してきた。
任命拒否は安全保障関連法などに反対していたためとみられるが、政府は今回の法案審議でも理由を説明していない。まずは任命拒否の撤回が必要だ。問題を風化させてはならない。 先週には東京地裁が、政府に任命の解釈を変えた過程を巡る文書の全面開示を命じた。これも速やかに開示すべきだ。
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