農水相更迭 米価の安定へ具体策を


2025
522日北海道新聞

 
石破茂首相は、コメ価格高騰のさなかに「コメは買ったことない。売るほどある」と発言した江藤拓農水相を更迭した。
発言の不適切さを踏まえれば更迭は当然だ。首相は任命責任を「痛感している」と述べたが、いったん続投を決めながら野党の不信任決議案提出の動きで更迭に踏み切らざるを得なかったのが実情だ。遅きに失したというほかない。

 
政府はコメ対策で失策を重ねており、江藤氏の発言と更迭で農政への信頼は地に落ちた。政権のさらなる求心力低下は必至だ。政府は消費者や農家に向き合い、流通や生産を含む抜本的な改革に取り組む必要がある。

 
首相はきのうの党首討論で直近の5キロ平均が4200円台のコメについて、一日も早く3千円台に下げるとの目標を示し、できない場合は「責任を取らなければならない」と明言した。
だが、実現に向けてはコメが「実際にどこにどれだけあるのか明確にしたい」などと述べただけで、具体性を欠いた。国民の不安に応えたとは言えない。

 
需給逼迫(ひっぱく)や価格高騰は過去の生産抑制の影響との見方は根強い。首相は討論でコメは余っていないとの認識を示し「増産の方向にかじを切る」と述べた。事実上続く減反政策の大転換となる発言だ。主産地の一つである北海道内への影響も大きい。

 
更迭された江藤氏の発言は、価格高騰に対する政府の認識の甘さを浮き彫りにした。発言の表現を地元・宮崎の方言と釈明したことなどにも批判が高まり、野党の動きを加速させた。
 コメを支援者から無償でもらっていると語ったことも見逃せない。倫理観の欠如は首相の商品券配布にも通じる。自民党の体質と疑わざるを得ない。

 
首相は農水相の後任に小泉進次郎氏を充てた。小泉氏は自民党農林部会長時代に農林中金や補助金の改革を掲げたが、激しい抵抗に遭い尻すぼみに終わった。実行力には疑問符が付く。

 
小泉氏は「組織団体に忖度(そんたく)しない判断をする」と語り、農業関係者には警戒感もある。首相が政権浮揚のため知名度の高い小泉氏を起用しただけなら、この難局は乗り切れない。

 
主食のコメは食料安全保障の肝でもある。生産者への配慮は当然だが、消費者側にも立った改革が求められる。まずはコメが国民に行き渡るようにして価格高騰を抑えた上で、改革に取り組む必要がある。
コメなどの物価高対策や消費税減税は、夏の参院選の争点である。与野党は財源を含む議論を深めなければならない。