無差別殺傷事件 相次ぐ凶行 背景に何が


2025
520日 北海道新聞

 
無差別殺傷事件が先月から今月にかけ各地で相次いだ。いずれの容疑者も、家庭などへの不満から犯行に及んだという趣旨の供述をしているという。
事実とすれば、鬱屈(うっくつ)した思いを暴力へと飛躍させ、無関係な他者へ向けたようにみえる。

 
いかなる理由があろうとも人を襲う卑劣な行為は断じて許されない。社会の安心も脅かしかねない犯行だ。
警察は背景や動機を丁寧に解明してもらいたい。その結果を社会で共有し、再発防止につなげなければならない。

 
414日にさいたま市で女子高校生が刺殺された。殺人容疑で逮捕された20代の男は「虐待を受け、性格がゆがんだ。自分は社会の底辺にいる」と供述したという。
51日には大阪市で下校中だった小学生の列に車が突っ込み、複数の児童が負傷した。容疑者の20代の男は「全てが嫌になった」と述べたとされる。

 
7日に東京の地下鉄駅で大学生に切りつけた40代の男は「親に教育虐待を受けた」などと話しているようだ。
不遇感から社会への憎悪を募らせたのだろうか。突然大切な人を失った家族の悲しみ、巻き込まれた被害者のショックに少しでも思いを致す想像力があれば―と残念でならない。

 
11日に千葉市の路上で84歳の女性が刺殺された事件では、中学3年の少年が殺人容疑で逮捕された。少年は「家族に対するストレスが限界だった」などと話しているという。
精神的にまだ不安定な年頃の少年の心の内に何があったのか。警察は学校の協力も得て慎重に捜査を進める必要がある。

 
無差別に人を襲う事件は繰り返されてきた。最近では、20218月に東京都内の小田急線で起きた事件と、それを模倣したとされる同年10月の京王線での事件が記憶に新しい。
08年に東京・秋葉原で当時20代の男が通行人らを次々と刺し多数を死傷させた事件では、裁判所は、孤独感や成育過程に起因する人格のゆがみも背景にあったと判決で指摘した。

 
地域の人間関係が細り、非正規雇用のような不安定な就労が広がった今、人々はより疎外感を抱きやすい状況に置かれていると言える。救いを求める人々を相談窓口や支援団体につなぐ重要性が増している。

 
国は昨年施行の孤独・孤立対策推進法に基づき、孤立した人を支える「つながりサポーター」の育成などに乗り出した。官民で取り組みを着実に進め、悲劇を未然に防ぎたい。