年金法案の審議 政治の責任が問われる
2025年5月19日 北海道新聞
年金制度改革法案が閣議決定され、国会に提出された。あす審議入りする。当初は3月に提出予定だったが大幅に遅れた上、改革の柱だった基礎年金の給付水準3割底上げ策が削除された。自民党内で夏の参院選への影響を懸念し反対論が広がったためだ。
この結果、法案は将来の年金世代に不安を残す不完全な内容になったと言える。年金制度は持続可能な社会の構築に不可欠で、制度設計は長期的な視野が求められる。目先の選挙にばかりとらわれているようでは、政治は信頼を失う。
野党側は底上げ策を求め、法案修正などを迫る構えだ。審議を尽くし、財源の議論にも向き合わねばならない。法案にはパート労働者の厚生年金加入拡大を盛り込んだ。「年収106万円の壁」は改正法公布から3年以内に撤廃する。現行で従業員51人以上としている企業規模要件も2035年までに廃止する。保険料を薄く広く徴収する狙いだ。
一方、削除された基礎年金底上げ案は相対的に余裕のある厚生年金の積立金を財源に想定していた。厚生年金額が一時的に減るため野党が疑問視し、与党にも慎重論が広がった。積立金の活用は「流用」と批判された。確かに各年金の保険料はそれぞれの給付に使うために徴収される。ただ、保険料を引き上げずに済む意味合いはあった。底上げ案の削除は正面からの議論を避けたに等しい。
政府は保険料を幅広く集める観点から、基礎年金の納付期間を5年延長し65歳になるまでとする案も検討したが、負担増の反発を恐れ早々に断念した。先送りばかりでは将来、事態の悪化を招く。特に基礎年金の依存度が高い就職氷河期世代への影響が深刻となろう。生活保護の申請が増え、社会保障費が一層圧迫される恐れがある。
石破茂首相は先月、氷河期世代の支援策強化を閣僚に指示した。経済財政運営の指針「骨太方針」に盛り込むという。法案への批判も意識したのだろう。バブル経済崩壊のしわ寄せを受け、長期間の非正規雇用を余儀なくされた氷河期世代への支援は欠かせない。そのためにも年金を安定的に運用していくことが何より重要である。
政府は今国会での成立を目指す。審議は難航が予想されるが、野党は対案や年金制度の将来像も示し、議論を深めてもらいたい。基礎年金と厚生年金の格差を是正し、老後の生活を支え続けられる制度にすることが政治の責任である。
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