トランプ20  米国債の格下げ 無責任な政策への警鐘だ

「米国第一」に固執し、無責任な政策を乱発しているトランプ米政権への警鐘である。世界首位の経済力をバックに発行され、最も安全な資産と見なされてきた米国債が、最高位の格付けを完全に失うことになった。

米大手格付け会社ムーディーズ・レーティングスが財政悪化への懸念を理由に格下げを発表した。ほかの大手2社は前の政権までに引き下げている。大国への信頼がさらに揺らぎ、国際金融市場が混乱しかねない。引き金となったのは、トランプ大統領が大型減税の恒久化を打ち出したことだ。

1期目に導入され、今年末に期限が切れる。規模は4兆ドル(約580兆円)に上り、トランプ氏は「史上最大」と誇示している。

だが、減税の大半は延長に過ぎないため、景気を押し上げる効果は限られる。むしろ税収が大幅に減るとの見方が多い。政府の債務が急膨張し、国内総生産(GDP)に対する比率は2050年代に200%超と現在の倍に跳ね上がるとの予測もある。

格付け最高位のドイツが60%台に抑えているのに比べると、借金漬けは歴然としている。トランプ氏が発動した高関税も財政赤字拡大の要因となる。米国の輸入品が大きく値上がりすれば、消費が冷え込む。経済が停滞し、税収も減少する。

米政府は引き上げた関税の収入で穴埋めできると主張するが、甘い見通しと指摘されている。心配なのは、金融市場が再び不安定になることだ。米国債は格下げの発表後に売り込まれる場面があった。4月にも高関税による景気への打撃が危惧され、価格が大幅に下落した。

日本など各国の政府や金融機関が大量に保有している。損失リスクの高まりで市場の不安が広がれば、株価も急落しかねない。米議会にも懸念が出ている。減税法案を審議している下院の委員会では、与党・共和党の議員からも反対の声が上がっている。チェック機能を発揮してほしい。

トランプ氏は自らの政策で「米国の黄金時代を実現する」と強調するが、独善的な路線を突き進めば、混乱を広げる。世界経済を安定させる責任を自覚すべ