サイバー法成立 運用に不断の検証必要
2025年5月17日北海道新聞
政府がインターネットを介したインフラなどへの攻撃を事前に防ぐ「能動的サイバー防御」を導入する関連法が、与党や一部野党の賛成多数で成立した。平時からサイバー空間を監視し、攻撃の兆候があれば警察や自衛隊がサーバーに侵入して機能を停止させるなどの「無害化措置」をとる。政府の権限は大幅に強化され、国会審議を経ても歯止めは十分とは言えない。
国会で問われたのは、憲法が保障する国民の「通信の秘密」との整合性だ。衆院では野党の意見で条文に国民の権利と自由を「不当に制限するようなことがあってはならない」との文言を加えて修正した。
石破茂首相も「通信の秘密尊重を徹底していく」と述べたが対象情報の基準は曖昧で、政府が恣意(しい)的に個人情報を収集する余地は残る。国会や国民による監視や不断の検証が必要だ。
政府は対象を国外が関わる通信に限るとしつつ、将来的に国内の通信に広げる可能性を否定しなかった。サイバー攻撃への備えは必要としても、際限なく国民のプライバシーに踏み込む懸念はぬぐえない。
野党からは情報がサイバー防御以外に利用される恐れがあるとの指摘も相次いだ。政府は運用に厳しい目が注がれていることを自覚しなければならない。政府への監視機能も弱い。政府は情報収集や無害化措置にあたる際、独立機関「サイバー通信情報監理委員会」に承認を求める。監理委は運用状況を国会に毎年報告するが、内容は無害化措置の件数などにとどまる。
参院の委員会は国会への十分な報告を求める付帯決議を採択した。政府は可能な限り情報を開示し、国会は強く関与し続けなければならない。今回の法整備は、米国側からの求めが背景にある。今後はサイバー防御分野でも日米の一体化が加速する可能性がある。
特に自衛隊が他国の無害化措置に動けば、憲法9条が禁じる武力行使とみなされる懸念は高まる。戦後の平和国家の歩みを危うくしかねない。政府は近年、特定秘密保護法の制定などで国民のプライバシーへの介入を強めている。
きのう運用が始まった、経済安全保障上の情報を取り扱う可能性がある人を政府が評価する「セキュリティー・クリアランス」制度も、精神疾患の通院状況まで調べるなどプライバシー侵害の懸念が根強い。サイバー防御法の修正では施行後3年をめどに法律を見直す規定も加えた。空文化させずに検証を続けなければならない。
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