選択的夫婦別姓 先送りは怠慢 導入急務
2025年5月16日 北海道新聞
選択的夫婦別姓制度を巡り、自民党は今国会への独自法案の提出を見送るという。立憲民主党が導入に向けて提出した民法改正案には反対する方向で、今国会での成立は難しい情勢だ。
法務省が把握する限り、結婚後の同姓を義務付けているのは日本だけだ。改姓で不便や不都合が生じているのに加え、使いなじんだ姓を名乗れなくなるのは個人の尊厳や人権に関わる。自民は導入派が一定数いる一方、保守を強く主張する議員らに慎重論が根強い。党がまとまらないからと言って議論を先送りする姿勢は許されない。
法制審議会が1996年に導入を答申してから30年近くたつ。今国会でも答えを出さないのは政治の怠慢だ。立憲の法案を軸に導入議論を急ぐべきだ。自民党内の慎重論は「家族の一体性を損なう」などが理由という。だが、いま議論されているのは別姓か同姓かを選択できるようにする制度だ。心配なら同姓を選ぶこともできる。
自民は対案として旧姓の通称使用の拡大や法制化も検討してきた。日本維新の会も通称使用に法的効力を与える法案を近く提出するが、問題は多い。通称使用はキャリア形成や海外での手続きなどへの影響が指摘される。そもそも二つの姓を使い分けなければならないという根本的問題は解決されない。
石破茂首相は就任前、選択的別姓に前向きだった。持論で党をまとめる指導力を発揮すべき時だ。賛否の党議拘束を外すのも一案だろう。衆院選公約に推進を明記した公明党も、導入へ動かなければ筋が通らない。今回の立憲の法案は法制審答申に沿った内容で、野党5党で2022年に共同提出した法案で出生時としていた子どもの姓の決定時期を結婚時に改めた。
衆院で野党が過半数になり実現が近づいたように見えるが、足並みはそろっていない。国民民主党は22年の共同提出に加わり、躍進した昨年の衆院選公約にも導入を明記した。今回は立憲の呼びかけに応じず独自案を提出するというが、保守層に配慮して結論を引き延ばしているなら一貫性を欠く。
結婚で姓を変えるのは多くが女性で、男女平等にも関わる喫緊の課題だ。国連の委員会は度々、日本に制度改正を求める勧告を出しており、最高裁も国会での議論を促している。推進団体の調査によれば、選択的別姓が実現すれば事実婚の人の約半数が法律婚に切り替えるという。現実的に困っている国民がいるのに、政治が手をこまねいていていいはずがない。
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