感染症国際条約 実効性確保へ米は参加を


2025
57日北海道新聞

 
世界保健機関(WHO)加盟国が感染症の世界的大流行への備えや対応を定めた「パンデミック条約」案に合意した。今月、採択される見通しだ。
ワクチン供給の不均等が問題となった新型コロナウイルス禍を踏まえ、ワクチンの一部をWHOに提供し、公平配分を目指す仕組みなどを導入する。

 
難航した交渉は3年にもわたったが、新たな感染症の大流行はいつ起きるか分からない。700万人超の死者を出した教訓を生かし、一定の対策にこぎ着けたのは評価していいだろう。
問題は、WHOの最大の資金拠出国であり、医薬品業界の圧倒的なシェアを占める米国が交渉から離脱したことだ。実効性を担保するためには米国の参加が欠かせない。トランプ米政権は早急に対応を改めるべきだ。

 
コロナ禍では先進国がワクチンを囲い込み、途上国の接種が進まなかったことにより地域間格差が課題となった。アフリカは総人口の6割がいまだにコロナワクチンを接種していない。
 条約案はこうした反省を踏まえ、多様な地域での研究開発体制の構築や医薬品の技術移転促進などを盛り込んだ。先進国側は製造したワクチンや製造技術を一定程度、途上国側に無償提供することが求められる。

 
交渉のネックとなったのはワクチン開発の技術移転に関する項目で先進国と途上国がなかなか折り合えなかったことだ。今回の合意に際しても、詳細な制度設計は先送りされた。
感染拡大に国境はない。先進国は譲り合いが結果的に自国の対策にもなることを理解し、具体的な対応を急ぐべきだ。

 
米国のWHOからの脱退はトランプ大統領が表明した。米国は予算の2割超を拠出する。ファイザーやモデルナなどの米国企業が関与しなければ、医薬品の技術移転も限定的になる。
トランプ政権は米疾病対策センターの人員を削減し、WHOとの情報共有を絶つよう指示した。協力を積み重ねてきた国際衛生の歴史に逆行する対応だ。他の研究機関や大学でも縮小や補助金凍結が相次いでおり、科学軽視の姿勢が目に余る。

 
国際社会から孤立し、情報共有を怠れば感染症の拡大を許し自らの首を絞める結果にもつながりかねない。米国はそのことを自覚しなければならない。
まずは各国が米国抜きでも的確な対応ができるよう準備を怠らないことだ。日本はコロナ禍の際も国産ワクチンの開発遅れなどが指摘された。各国の協調に向け、今度こそ主導的な役割を果たさなければならない。