核ごみ協議の場 調査への露骨な誘導だ
2023年3月20日 北海道新聞
政府は月内にも、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分を巡る基本方針の改定案を閣議決定する。国と自治体の間に「協議の場」を新設し、文献調査受け入れへの調整を加速させる考えだ。
改定案には「一丸となって政府の責任で最終処分に取り組む」と記されている。調査に応じた自治体には従来の巨額の交付金に加え、関係省庁の連携によって地域振興策をさらに手厚くする。
文献調査は2020年に後志管内寿都町と神恵内村で始まった。だが、他に名乗りを上げる自治体がないことに政府が危機感を覚えて見直しに動いた。核のごみは無害化に約10万年かかる。地震が頻発する日本で安全な地層処分法が確立されているとは言い難い。
安全性を巡る根本議論や住民の不安を置き去りにして政府が自治体に働きかけを強めるのは、文献調査への露骨な誘導策と言える。改定案には、政府が原子力発電環境整備機構(NUMO)や電力会社と協力し、全国で促進活動を行うと盛り込まれている。100以上の自治体を訪問し、首長らに協議の場への参加を促す想定だ。
経済産業省資源エネルギー庁は有識者の会合で、参加する自治体名を公表せず、議論も非公開で行う方針を示した。地域の将来を大きく左右する問題なのに、住民不在の密室協議は容認できない。
また政府は全国知事会や全国町村会を通じた自治体への働きかけも行う。知事会や町村会は自治体が連携し、国に制度改正などを要望する組織だ。これでは上意下達の中央集権化の促進ではないか。
文献調査に応じる自治体には、農林水産業の振興や観光による地域活性化、人手不足対策などを支援する構想だ。一連の振興策は、文献調査とは関係なく全国どの自治体にも実施するのが国の責務だろう。自治体の弱みにつけ込む手法だと言われても仕方がない。
現行の基本方針は15年に策定され、自治体の応募式に加え、政府の側が自治体に申し入れる手法も取り入れた。17年には科学的適性のある地域を地図上に示した。文献調査は当該自治体の判断だけで始められる。寿都と神恵内が調査に応じた際は、反対する道や周辺自治体の意向は考慮されず地域の分断を招いた。
都道府県や周辺自治体の意向を反映させる仕組みが必要だ。道内での混乱を全国で繰り返すようなことがあってはならない。
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