山口敬之の「韓国軍に慰安婦」捏造疑惑 根拠となった米公文書を“意図的に読み換え”?【検証2
 
週刊文春「韓国軍に慰安婦」記事は山口記者の捏造か(2
 
TBSワシントン支局長時代の山口敬之氏(51)が週刊文春に寄稿した「韓国軍に慰安婦」記事(201542日号)に浮上する捏造疑惑。リサーチャーを務めたグリーン誠子氏が、記事のベースとなる米国公文書を発見したのは14年夏のことだった。
 
「山口さんはこれを読み、韓国軍が経営している慰安所という理解でいいのかと私に聞きました。これに対して“そう思います”とお答えしたのをはっきり覚えています。同盟国の軍隊、しかも米軍の先を行き、一番危険な任務を帯びていたほどの国の司令部に、このような“手紙”を出すのは特殊なこと。米軍側がそうせざるを得なかったのは、余程のことがわかったからではないでしょうか」(グリーン氏)
 
他方、彼女はこうも忠告していた。

「公文書を送った米国側の高官たちが生存しているなら取材のアポイントを取るべき。それが無理なら現存する米政府内の担当省庁の高官たちに取材し、資料を示してその内容の深さを推し量ってもらいたい、とね」
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グリーン氏が発掘したその文書は、ワシントン市街からシャトルバスで40分ほど走った米国国立公文書館2号館、通称「アーカイブII」に存在する。
 
時期は1969年、宛先は韓国軍ベトナム指揮官・蔡命新中将。全文とその邦訳は配信中記事「山口敬之の“韓国軍に慰安婦”捏造疑惑 米公文書を全文公開」にて紹介するが、中身は次のような米当局の捜査報告書だ。

無許可で離隊した
米兵が通貨不正取引に関わった。調査すると、会合場所がサイゴンのトルコ風呂(註:公文書中では「ターキッシュバス」と表記)という施設だとわかった。
・手入れの結果、駐屯地売店で取扱う大量の免税品を押収。韓国軍のトラックが駐屯地売店から横流しされた米国製ビールを荷下ろしするのも目撃された。
・トルコ風呂の所有者は、ベトナム駐屯韓国軍特別サービス補佐官の大佐の署名が入った文書を提出した。そこでは、トルコ風呂は韓国軍のみに便益を提供する韓国軍福利センターだと述べられている。また、押収された物品の返還を求め、韓国防諜部隊長の大佐が署名をした文書も提出された。
・米国側捜査官らは米軍関係者の施設への関与を明らかにしようと、ベトナム関税警察と協力して調査した。
〈調査の進展とともに明らかになった事実は、以下の通りである〉として、こう続く。
・トルコ風呂は韓国軍のみの便益のために営業していたわけではない。むしろ一般に開かれたものであると思われ、ベトナム国籍を有する者は除くものの、一般大衆にもサービスを提供しているようである。
・ベトナム人ホステスが“サイゴンティー”を買うように薦め、夜は売春が行なわれている。料金は38ドル。
 
そして文書は、違法行為に加担した韓国軍大佐ら6名、米兵ら3名を名指しして終わっている。
 
慰安所という言葉はない
 
公文書に精通し、近著に『こうして歴史問題は捏造される』(新潮新書)がある、有馬哲夫・早大社会科学部/大学院社会科学研究科教授は一連の資料を実際に現地で確認して、「大多数はブラックマーケットに関する文書でした。当時、ベトナムにいたアメリカ軍を悩ませていたのは、兵士の薬物中毒と経済犯罪だったことが、他の文書からもわかりました」 としたうえで、当該文書をこう解説する。
 
「このトルコ風呂経営者の言い分は“ウチのところは韓国軍専用なので基地の中と同じようにドルを使って兵士への支給品を売り買いしてもいいのだ”というものです。それに対して、米捜査官は“調べたが、韓国軍専用ではなく、一般向けの売春施設だ。だから韓国軍大佐が書類を作ってもサインしても、韓国軍専用だったという事実はない”と指摘しています」 
 
山口記事は、〈押収資料の中から、韓国兵の福利厚生を担当する特務部次長(註:「福利厚生を担当する特務部次長」についてのウェブ取材班訳は「特別サービス補佐官」)の任にあった韓国軍大佐の署名入りの書類が見つかり、その書類に韓国軍による韓国兵専用の慰安所であると示されている事〉が韓国の慰安所と指摘された根拠の1つだとする。
 
「公文書全文を読んでも慰安所(Military Brothels)や慰安婦(ComfortWomen/Military Prostitutes)という言葉が出てきません。トルコ風呂(TurkishBath)や韓国軍福利センター(a Republic of Korea Army Welfare Center)を慰安所と、単なる売春婦(prostitutes)を慰安婦と言い換えてしまっています」(同)
 
そうすると分かるのは、「この公文書は、①アメリカ軍の物資が勝手に売り捌かれていたり、その取引にドルが不正に使われていたりしたという経済犯罪の捜査に関連したものであり、②捜査に関連して、ベトナム税関当局が不正取引の温床になっている『トルコ風呂』を捜索したことがわかる米軍当局の文書(韓国軍幹部に宛てた手紙)だということです。確かに、文書にはその施設で売春が行なわれていた記述はあります。しかし問題となるのは、それが慰安所なのか一般の売春宿(と変わらないもの)なのかという点です」(同)
 
繰り返すが、公文書には慰安所という言葉はない。
「慰安所という言葉を使うのであれば、その施設に軍医や憲兵がいるなど、きちんと軍が運営管理していた実態を把握する必要があります。しかし、公文書からはそうした事実は読み取れません。逆に一般に開かれた施設であることを文書は証明しているので、軍事売春所、つまり山口氏の読み換えた慰安所ということも完全に否定されます。一般大衆に開かれていては性病予防が徹底できず軍用にふさわしくない。文書にそうあり、その要旨からもあり得ないのに、山口氏は故意に無視しており、捏造と言われても仕方がないでしょう。旧日本軍の場合、慰安所の管理体制を示す資料がありますが、この公文書にはそうしたものは何もないのです」(同)
 
山口氏は韓国軍の関与について、文書の前半の〈韓国軍のみに便益を提供する〉という部分を論拠に挙げている。しかし、「その後の文章で“そのトルコ風呂は韓国駐屯軍のみの便益のために営業していたわけではない”“大衆にもサービスを提供する一般に開かれた施設である”と記されている通り、公文書は施設が韓国兵専用であったことを否定しているのです」(同)
 
煎じ詰めると、トルコ風呂が売春宿としても利用されていたことは確かだが、公文書からはそれが韓国兵専用であったとは読み取れないし、仮に韓国兵専用の売春宿であったとしても軍が施設を運営管理した事実が記されていない。従って、「この公文書から“韓国軍の慰安所がベトナムにあった”という事実を導くことはできません」(同) と結論付けるのだった。