気鋭の学者の予言通り 安倍対米外交で「2度目の敗戦」

2017年1月28日 日刊ゲンダイ 
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なにからなにまで的中していて、怖いくらいだ。


「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領に対し、安倍首相はどう対応するのか。日本の国益のために少しは気概をみせて戦うのか、それとも完全に屈服するのか――。昨年末、京都精華大専任講師の白井聡氏(社会思想)が、日刊ゲンダイのインタビュー(12月24日付)で予言した通りの展開になっている。白井氏は、著書「永続敗戦論――戦後日本の核心」で石橋湛山賞を受賞した39歳の気鋭の学者である。白井氏は、こう予言していた。


〈トランプ体制では米国への従属がますます露骨になるでしょう。例えばTPP。本丸の米国に梯子を外され、極めて滑稽なのですが、ではTPPがなくなってよかったと言えるかというと、そうならない。おそらく米国は2国間FTA(自由貿易協定)で、日本国民の有形無形の富を吸い上げる姿勢をより鮮明にしてくる。今の政府はそれを押し返せやしないし、その意思もない。むしろ無理な要求でも全てのんでいくことが国益になると思っている節すらある〉

 
予言通り、トランプ大統領はTPPなどの多国間協定の代わりに「2国間協定」を結んでいくことを正式に表明。ロイター通信は26日、2月10日に予定されている日米首脳会談で「早期合意」を求める方針だと報じている。

 
安倍首相も、あれだけ執着していたTPP締結を簡単に捨て、国会で「アメリカとの2国間交渉を排除するのかと言われればそうではない」「日米FTAがないわけではない」と答弁しはじめている。内閣官房にある「TPP対策本部」も、日米交渉に備えて改組する予定で、トランプの要求に屈して「日米FTA」を結ぶつもりだ。

 
いったい、国民の反対を押し切って強行採決した「TPP法案」は、何だったのかという話だが、気持ち悪いくらい、白井氏の予言通りになっているのだ。


■日米FTAを結んだらオシマイ

 
しかし、「日米FTA」を結んだら、それこそ予言通り、日本の富は根こそぎアメリカに奪われてしまう。なにしろトランプは、理屈も常識も通じないチンピラのようなものだ。メキシコには、「国境に壁を築く。そのカネを払え」などと一方的にインネンをつけている。


「トランプ大統領は、あらゆる国に対して、力ずくでアメリカに有利な“2国間協定”を結ばせるつもりです。“日米FTA”を締結したら、日本が大損害を被るのは確実です。まず、自動車がターゲットにされるのは間違いない。日本との自動車貿易を“不公平だ”とやり玉に挙げています。さらに、TPPで関税引き下げに合意した牛肉や豚肉など農産物の関税撤廃も求めてくるでしょう。要警戒なのは、日米FTAに“為替条項”をねじ込んでくる可能性があることです。『2国間交渉では為替操作を厳しく制限する』と口にしている。日本は、自動車などの個別品目だけでなく、円高までのまされかねない。日米FTAを結んだら、日本経済は一気に冷え込む恐れがあります」(経済評論家・斎藤満氏)

 
この際、日米首脳会談は見送った方がいいのではないか。安倍首相は早期の会談を切望しているが、トランプと会ってもロクなことにならない。飛んで火に入る夏の虫になるだけだ。


「もともと、日米首脳会談は1月27日が有力視されていました。ところが、いざ日本サイドが日程の確定を求めたら返事がない。最後は、日本側が会談実現を懇願する形になった。ただでさえ、日本は弱い立場なのに、お願いして会うことになったため、首脳会談は譲歩に次ぐ譲歩を強いられる恐れがあります」(霞が関関係者)

 
安倍首相は、何のためにアメリカに行くのか。  http://asyura.x0.to/imgup/d6/2540.jpg
   

戦略のカケラもない対米従属

 
戦後70年間、ひたすら「対米従属」をつづけてきた日本にとって、トランプ大統領の誕生は、本来、アメリカとの関係を見直す絶好のチャンスだったはずである。


「米国第一主義」を掲げるアメリカが孤立主義に走れば、日本は必然的に「対米自立」へ向かわざるを得なくなる。アメリカに従っていても国益を損なうだけとなったら、なおさらである。

 
世界各国のリーダーも、自国の利益を考え、この先、トランプが率いるアメリカとどう関わっていけばいいのか慎重に動いている。

 
ところが、安倍首相は、ひたすら「早期の日米会談を実現したい」と、トランプと会うことを切望しているのだから、話にならない。どうすれば、トランプに気に入ってもらえるかということしか頭にないのだから、どうしようもない。

 
白井聡氏が日刊ゲンダイのインタビューで、〈おかしいのは、日本では常に議論が逆立ちしていることです。「米国がどうなりそうだから」という話ばかりで、「我々がどうしたいのか」という議論が一切ない。本来、「我々がどうあるべきか」が先でしょう〉と、指摘していたが、その通りだ。

 
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。


「アメリカがTPPから離脱したなら残り11カ国で締結するとか、中国などアジア16カ国が参加するRCEPの締結を急ぐなど、日本にはいくつも選択肢があるはずです。日欧EPAという選択もあります。なのに、安倍首相はアメリカしか見ていない。歴代の首相も対米従属でしたが、それでも多少は戦略的でした。米軍に軍事を任せて経済に集中しようなどと計算していた。ところが、安倍首相はなにも考えずにアメリカに従っている。アメリカファーストのトランプ政権は国益をムキ出しにしているだけに、日本は骨の髄までむしり取られますよ」


■まったくムダだった50カ国訪問

 
安倍首相がつくづく阿呆なのは、「トランプラリー」によって日本の株価が上昇していることに浮かれていることだ。しかし、1万9000円を突破した株価も、トランプ大統領から「円高」をのまされたら、あっという間に暴落するのは目に見えている。早ければ、首脳会談が行われる2月10日に急落するのではないか。

 
このまま安倍首相に日本のかじ取りを任せていたら、日本は2度目の敗戦を迎えてしまう。


「トランプ大統領の誕生でハッキリ分かったことは、安倍政権は経済だけでなく外交も行き詰まっているということです。“地球儀俯瞰外交”をウリにしてきた安倍首相は、50以上の国を回ったと自慢していました。もし、50カ国の首脳と深い信頼関係を結べていたら、これほどトランプ大統領にスリ寄る必要もなかったはずです。この5年間、なにをしてきたのか、ということです」(金子勝氏=前出)

 
国益と国益がぶつかる外交は、安倍首相のように頭を下げるだけでは、相手にナメられるだけだ。実際、インネンをつけられたメキシコの大統領は、トランプとの首脳会談を直前に蹴り、その結果、国境の壁の建設費については「公の議論は控える」ことでトランプと電話会談で合意している。トランプを黙らせた形だ。

 
日本と同じ敗戦国であり、アメリカの同盟国であるドイツも、言うべきことは口にしている。

 
予定通り、2月10日に「日米首脳会談」が実施されたら、どんなことが起きるのか。日本が2度目の敗戦を迎える前に、「永続敗戦」を地で行く対米隷属首相を放逐しないと大変なことになる。