腹七分目の美学 守銭奴にひた走る既得権者の醜さ 

世相を斬る あいば達也 2016/11/30
 
いま地球上で、グローバリズム信者だと堂々と口に出来る国の頂点に、日本と云う国は存在しているようだ。日経の世論調査でも、「トランプ大統領歓迎せず」が56%であったり、安倍内閣の経済政策、外交安保等々の政策も、市場関係者を歓ばせ、輸出企業を一服させる効果はあったが、それら効果は一過性であり、今、残された問題はマイナス金利や歪んだ金融市場の姿である。

しかし、現状を容認するることが大好きな日本人は、内閣が、各論において、自分の考えと異なる方向の政策を打っていても、「まあ、イイか。野田の民進党よりはマシだろう」くらいの支持を表明している。事実、その考えは正しいかもしれない(笑)。多くの日本人は、今の日本政府の政権運営と世界を驚嘆させている反グローバリズムの動きが、全く逆な方向に向かっているくらいは知っている。

米国追随政権運営以外の選択を知らない日本政府は、世界全体のベクトルが変わってきていると気づいても、オリジナリティがないのだから、ポカンと口を開けて傍観するほかない。日本政府も、与野党に関わらず、米国あっての日本。その米国が方向性を失っているのだから 、傍観が唯一の選択なのだ。自己決定を放棄した国の憐れさが、際立っているのが、今の日本だと言えるような気がする。

英国、米国と云う第二次世界大戦後の世界の枠組み作りに強く関与し、事実指導的立場であった両国の国民が、そのアイデンティティに「NO」を突きつけた事実は、単なる偶然である筈がない。政党こそ違うが、ビル・クリントン、ジョージ・ブッシュ、バラク・オバマと3代に亘って、米国ホワイトハウスは、ウォールストリートと軍産複合企業群、多国籍企業群の執事のような政治を展開したのだから、グローバルと云う幅の広い方向性から、グローバリズムと云う狂信的イデオロギーの鎧を身につけ、敵味方を鮮明に色分けする特異性を発揮した。

経済学においては、このグローバル経済における原動力は、フロンティアが存在し、その地に、投資を集中することで、厚みのある利益を生み、先進国もフロンティア地域も潤うメカニズムが成立した。しかし、最大にして最高のフロンティアであった中国は、世界のフロンティア地域から、一気に世界経済を牽引する一大勢力の樹立に向かって、その姿を明確に世界に見せつけている。

グローバル経済の成長メカニズムの一つに過ぎなかった、20世紀最後のフロンティア国である中国が、米英中心に栄華を極めてきたグローバル経済と云う経済領域の枠組みを乗り越えて、グローバリズムと云うイデオロギーな色彩の強い、マンネリ化した欧米主義を温存しようと云う勢力と、もう、グローバリズムに糊代は残っていない。兎に角、新しいフェーズに入るためには、欧米型グローバリズムのイデオロギーから抜け出そうと云うのが、英国、米国、EU,中国、ロシア等々で、反グローバリズムな思想的動きはムーブメントから、パワーへと移行している。

この動きに、驚くほど鈍感な国が、日本であることは、確実だ。正直、主だった先進国が、エスタブリッシュメントのあるべき姿を模索せざるを得ないと考えている最中、兎に角、20世紀的な欧米型付加価値に逃げ込めば、目立たずに「よい子」でいられるに違いないと云う、コウモリのような生き方が、もう通用しない21世紀が始まっていることを、言論人らがサボタージュして、誰一人語ろうとしていない。無論、マスメディアも全員走りだしている列車にブレーキを掛ける気力はない。日米大戦に突き進んだ大日本帝国と、何ら変わっていない日本人の組織を、我々は眺めているようだ。東京新聞が奮闘はしているが、多勢に無勢なのが日本の勢力図である。

≪ 米TPP離脱 グローバリズム是正を
トランプ次期大統領の離脱明言でTPPは実現困難になった。発言の底流にあるグローバル化の歪(ひず)みを是正し修復しなければ、自由な貿易は前に進めないどころか、保護主義へと転落しかねない。
 
世界中の新聞、テレビ、雑誌、ネットにあふれる論評、解説がトランプ氏の米大統領当選の衝撃を物語っている。
 
なかでも重要な指摘のひとつに「歴史の転換点」がある。
第二次世界大戦後、自由、人権、民主主義という理念、価値観を掲げてきた米国は内向きになり、外交も安全保障も経済も米国にとって損か得かという「取引」「米国の利益第一主義」に変容していく。米国が主導してきた国際政治、経済の枠組みの終わりという見方だ。
 
冷戦終結後の一九九〇年代以降、米英を中心に加速した経済のグローバル化は、多国籍企業が富の偏りや格差の拡大を意に介せず利益を追求する貪欲な資本主義、マネーゲームの金融資本主義に化けた。負の側面が露(あら)わになったグローバル化は、その意味を込め「グローバリズム」と呼ばれるようになる。
 
トランプ氏を大統領に押し上げたのは、グローバリズムに押しつぶされる人々の既得権層に対する怒りだった。これを黙殺して貿易の自由化をさらにすすめる環太平洋連携協定(TPP)からの離脱は、当然の帰結といえるだろう。
 
貿易立国の日本は戦後、関税貿易一般協定(ガット)や世界貿易機関(WTO)を成長と安定の土台にしてきた。このため自由貿易の停滞や保護主義の台頭を懸念する声は強い。
 
だが、米国をTPPから離脱させる力は、過剰な利益追求や金融資本のマネーゲームに振り回され、暮らしが破綻に追い込まれつつある中低所得者層のぎりぎりの抵抗にある。その事実を直視しなければいけない。
 
二十四日の参院TPP特別委で安倍晋三首相は「自由で公正な経済圏を作っていく。日本はそれを掲げ続けねばならない」と審議を続ける理由を説明した。
 
強者の自由が行き過ぎて弱肉強食となり、社会の公正は蔑(ないがし)ろにされてTPPは行き詰まった。
 
グローバリズムの欠陥、その象徴である経済格差を「公正」という価値観で是正しない限り、自由な経済は前に進めない。新たな対立を生みだして世界を不安定にする保護主義の台頭を防ぐことはできない。
(11月28日付東京新聞社説)