株価と金利低下が世界同時に進むナゾ
(東洋経済オンライン2015/3/29

リスクを軽視した解釈をするべきではない
 

世界的な規模で進む、株価指数の新高値と史上最低水準の実質金利。両者の乖離をどう理解すべきか。

よく見られる説明は、危険なほどに誤解を生みやすい形でリスクファクターを軽視している。たとえば、「長期的停滞」理論は、低金利が要因だと主張する。世界経済の問題は慢性的な需要不足にあり、政府支出の持続的な増加で対処可能だとするものだ。

この見方によれば、株式市場の上昇は単に将来の利益の低い割引率を反映するものにすぎない。さらに、世界の上位8位までを占める経済大国において、おそらく英国を例外に、利益に占める労働分配率は近年大幅に低下している。反対に、株価上昇を背景に、利益に占める資本比率は上昇している。

■需要が供給を抑制するか疑わしい

長期的停滞論の支持者たちは、先進国経済の大半においてGDP(国内総生産)比で1950年代の2倍以上に増加した政府支出をさらに増加すべきだと主張する。が、需要が恒久的に供給を抑制するというアイデアは疑わしい。より洗練された近年の不景気に関する研究は、いわゆる「履歴効果」が継続的に失業に及ぼす効果は、少なくとも米国においては限定的であることを示唆している。

低金利を説明するためのもう1つの方法は、金融抑圧政策である。欧州中央銀行や日本銀行はむさぼるように債券を購入している。同時に、金融の安定性を高め、銀行、年金基金や保険会社に国債を保有させるための新しい規制も導入している。したがって、現在の低金利は、成長期待の低さよりも、むしろ金融市場における歪みを反映したものである。

金融抑圧論の支持者は、低金利を債券保有者に対する隠れた課税ととらえる。これは必ずしも悪いことではない。

しかし、低収入の家計においては通常、資産全体に占める株式資産の比率は高くないため、金融抑圧税は一般財産税ほど累進的ではない。いずれにせよ、債券利回りの低下は、国債にとどまらずはるかに幅広い種類の債券へと拡大した。

 
先進国経済の大半における人口動態の逆転と労働供給力の低下は言うまでもなく重要である。問題は、このトレンドが非常に段階的かつ予測可能な形で進展している一方、金利低下は急速かつ、ある意味で予測不可能なことだ。そして、人口動態の脆弱さが株式価格の堅調さの主因だと主張することは難しい。
 
興味深いことに、リスクの高まりとさらなる混乱に対する恐れは、現在の政策論議で重要視されていないようだ。そのようなリスクに対し、債券は完璧なヘッジとはならないものの、株式に比較して通常よい成績を残している。

最近の研究では、比較的小さな災害リスクの変化でさえ、グローバル実質金利の大幅な低下(マイナスもありうる)を招きかねないことが示された。しかし、こうした事柄が政策に及ぼす影響は単純なものではない。政府が優れた情報と分析能力を有し、社会不安が正当なものではないことを正しく評価するならば、当然、情報の利用は有意義なものとなる。

他方で、災害リスクの高まりに関して大衆が基本的に正しいとすれば、災害が起こった場合、政府は高い費用負担に直面する可能性が高いということだ。これはつまり、最も必要とされるときのための財政余地を確保する高いオプション価値を示唆する。超低金利が単に需要不足や金融抑圧のもたらす兆候にすぎないという考えは、単純化しすぎており危険だ。

もちろん、金融危機の端緒における将来的な経済破綻のリスクへの社会不安の高まりは、ユーロ圏に残る脆弱さと新興国市場の不安定性とともに、重要な役割を果たす。当然ながら大衆はより用心深くなる。しかし、株式および債券の価格トレンドを説明できるリスクが現実となりうるならば、政策立案者もまた、無謀なまねをしないよう留意すべきであろう。