『東京ブラックアウト』若杉冽×古賀茂明 告発対談 「キャリア官僚はメルトダウン中に再稼働を考え始める生き物です」

20150220日 現代ビジネス


『東京ブラックアウト』は、フクシマ原発の事故後、原子力ムラの思惑通りに原発が次々再稼働して行く過程を描写するところから始まるノンフィクションノベルだ。その後、再稼働した「新崎原発」がテロにあい、全電源を喪失、メルトダウンする。避難計画は機能せず、やがて東京にも放射能の雨と雪が降りそそぐ・・・・・・。


現役キャリア官僚だから書けたリアリティある悪夢。近い将来、このシナリオは現実のものとなってしまう可能性が高い。原発再稼働はなぜ止まらないのか、安倍官邸を牛耳るのは誰か、この流れを止める政治家はいないのか、などについて、作者の若杉冽氏と、同じく霞が関の官僚を知り尽くした古賀茂明氏が、120分語り合った。

若杉冽(わかすぎ・れつ)東京大学法学部卒業。国家公務員種試験合格。現在、霞が関の省庁に勤務するキャリア官僚。著者には、ベストセラーになった『原発ホワイトアウト』がある。

古賀茂明(こが・しげあき) 1955年、長崎県生まれ。80年東京大学法学部卒業後、現在の経済産業省入省。経済・産業政策の要職を歴任、08年、国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任。急進的な改革を提言したが、民主党の反対で廃案に。東日本大震災と福島第一原発事故を受け、東電の破綻処理などを『日本中枢の崩壊』(講談社刊)で好評、119月退官。その後は『報道ステーション』ほかメディアで精力的に発信。近著『国家の暴走』(角川oneテーマ21)では安倍政権の危険性を指摘、「改革はするが戦争はしない」国の実現を模索する。

霞が関で若杉冽の犯人探しは?

古賀茂明: 若杉さんとは、前作の『原発ホワイトアウト』が出たあとに、『週刊プレイボーイ』と『週刊現代』で対談しまして、それ以来です。2作目の『東京ブラックアウト』でも、また私の実名を出していただきまして……。安倍首相、小泉元首相、新潟県の泉田知事、他にも原発ムラの実在する住民たちを連想させる登場人物がみんな仮名。東京電力や電事連、柏崎原発や川内原発も仮名なのに、私はなぜか実名で、ありがとうございます(笑)


若杉冽:すみません。仮に電車の中で見かけたら声をかけたくなるくらい親しい人は、実名でも後で許してくれると聞きまして。限りなく事実に近くてもウラが取れない話だったり、今後起こり得るんだけれども、もちろんまだ起こっていない話を書くときはどうしても仮名にするので、実名が古賀さんくらいになりました。

「官僚制に辛辣だが紳士的で主婦層に特に人気がある」「総理夫人の加部咲恵とFB友だちで密かに好意を寄せられている」と褒めてありますので、どうかお許しください。

古賀:さて、1作目も感動したんですけど、それをしのぐおもしろさで、引っかからずに読めました。避難計画のずさんさとか、再稼働への政府の動きとか、半分くらい自分のメルマガでも指摘したテーマなんですが、それが実際に起きたらこうなってしまうという映像が浮かぶ面白さ、というか怖さです。売れてるんですか?

若杉:まだ、古賀さんの霞が関からの告発第一作『日本中枢の崩壊』ほどではありませんが、2作めの『東京ブラックアウト』が7万部で、合計で23万部を超えました。

古賀:それだけ影響力があると、若杉冽は誰なんだと。現役のキャリア官僚と称しているけど、どこの役所のどいつなんだ、実在するのかと、犯人探しが凄いんではないですか。

若杉:いや、怖いですよ。私は正直、脅えています。

古賀:いや、危ないんですよ。普通に考えると犯人を突き止められて、トバされたり、いじめられたり、何をやられてもおかしくないんですが、ただ彼らも少し頭がよくなったようで。下手に
若杉冽に手をつけると・・・・・・。

若杉:そうです。やり過ぎると、窮鼠猫を噛むじゃないですけど、第2の古賀茂明を生んでしまう。それは最悪の事態で(笑)、追い込んだ人間が責任を取らないといけなくなりますから。

古賀:ギリギリのバランスのところに今はあって、自民党は圧倒的多数で多少余裕がある。これが昔の麻生政権みたいに、もう自民党も終わりじゃないかみたいなときだと、この本で原発再稼働のウラが暴かれて政権の致命傷になるんじゃないかと、本気でつぶしにくると思うんです。だからこれから情勢が変われば「この大事なときに、こいつ」みたいなことが起きると本気でつぶしにくる。

若杉:実際、大手の新聞社から著者インタビューの依頼があって、取材を受けたのに、記事にもならなかったという、探りに来たとしか思えないひどい話もありましたね。あれは危なかったです。

古賀:それは相当いろんなことやってくるでしょう。僕のときは全然、前例がなくて、役所の中で実名でめちゃくちゃ告発を始めたときに、向こうはこいつと思って、いろいろ封じ込めようと思ったんでしょうけれど、僕が常に彼らの想定外のことをやり続けて、どんどん向こうが墓穴を掘ってたって感じでしたね。『日本中枢の崩壊』も事前に秘書課と広報室に出したんですよ、それで内容を検閲してくださいって言った。ところが2週間ぐらいじっと時間がたっても、何も文句を言ってこれない。

若杉:検閲したことの責任をだれもとりたくなかったんでしょうね。

古賀:でも、渡した原稿がダミーで、実は違う内容のものが出て、大臣に怒られたりする可能性があるから、出来上がった本の包みを僕が部屋の机の上に置いておいたら誰かがそれを盗みに来たんですね。で、全部コピーして戻して想定問答を作っていたようです。

若杉:それは確実な話なんですか?

古賀:私の部屋は、廊下との間に鍵のあるドアがあり、その内側に秘書がいて、さらにその内側の自分の部屋に入るところにも鍵付きのドアがあるんですね。廊下との間のドアには鍵をかけるんですが、秘書のいるところから入るドアにはカギなんてかけたことのないのに、朝になったらカギがかかってた。
掃除に入った秘書が、おかしいなと思って、私が出勤したとき、「古賀さん、昨日本を見たら1冊だけ新品じゃなくて大きく本を開いた感じのものがあって・・・。向こうは大事なものをしまっているのに カギをかけないはずがないと、勘違いしてバレたんです(笑)。

パニック時に再稼働を考える官僚という生き物

古賀:『東京ブラックアウト』は、新崎原発がメルトダウンして、福島第1のときにシミュレーションした最悪の事態、二百何十キロ避難が本当に起きて、ずさんな避難計画のせいで原発2030㎞圏の住民が逃げ惑ってパニックになる。その状況を知ってか知らずか、ずっと離れた官邸の関係者、家族をすでに海外に避難させた霞が関の官僚たちがどういう反応をし、どう自分たちは生き延びようとしているのか、これらがものすごく細かく描写されています(笑)。

あれはやっぱりキャリア官僚じゃないと絶対に書けない。普通の人から見たらすごい衝撃で、えーっ、官僚たちはそんなひどいやつらなの、えっ、そんなばかなこと、考えちゃうのとか、そういう場面が1ページに何回も何回も出てくるみたいなおもしろさがあります。

若杉:そうなんですか。古賀さんにそういうふうに言っていただくと大変私としても新鮮な驚きというか、私からしてみると福島第一原発の事故以後は特に、いろんな報道が散発的に出てくるんですけど、やっぱり報道っていうのはウラが取れないといけないから、本当の真実のごくごく一部しか出ないんですよね。

ウラが取り切れないところにも真実はあって、実像はもっと別のところにもある。実像を知っている私からすると別に日々起きて見聞きしている話、日常的にごくごく当たり前のやり取りで記憶に残ったものを、小説という形に置き換えて書いているだけなんです。それが霞が関の外の人から見ると、とても非常識なことなんだなというのを、外に出られた古賀さんにあらためて言われると、ああ、そうなのかと気がつくものがありますね。

古賀:いや、そうなんですよ。僕は若杉さんが全国で講演したらおもしろいなと思うんです、さすがにすぐはできないでしょうけれど、講演したらわかります。僕も霞が関の外に出てから、いろいろ講演するようになって難しい話もしますけれども、みなさんが聞いておもしろかったっていうのは、実は官僚ってこういうときはこういうふうに考えて、こういう行動をとっちゃうんですよという普通の話をしたときが1番盛り上がるんですよ。

驚きだったっていう人もいるし、すごい憤りを感じたっていう人も、めちゃめちゃ滑稽で笑えましたっていう人もいる。官僚ってこうだとは夢にも思えなかったという人が多いんです。『東京ブラックアウト』で例を挙げると、新崎原発周辺がパニックになっているときに、遠く離れた官邸で、原子力ムラの二人が密談する場面とか。


若杉:新崎原発がメルトダウンして、格納容器が爆発して首相官邸も騒然となる中、二人の原子力ムラの人間が騒然とする官邸を抜け出して、「まずいことになりましたな」と言いつつ、今後のことをそっと打ち合わせします。経産省キャリアで資源エネルギー庁の次長と、「日電連」の関東電力出身の常務理事の二人ですね。


古賀:ひとりは今、安倍官邸で中心的存在の人がモデルで、もう一人も、東京電力から電事連に出向して、電力会社が政治家にカネを配る仕組みを作った人がモデルでしょう?この二人が、フクシマに続く2度目のメルトダウンの直後に、またしても作業員や住民の被ばく限度を引き上げるところから始まって、懲りずにまた原発を再稼働させるスキームを作っていく。一般の人にとってはさすがにありえないと思う場面ですよ。

若杉:でも官僚的には当然、ああいう会話になるわけなんです。それはそうですよね、メルトダウンで格納容器が爆発して、日本がパニックになっているときに、同じ方向に電力関係者も役所も官僚も走っていっちゃったら、事態の収拾はできないわけですから、パパッとああいう今後へのロードマップを作ります。


ロードマップを作るときには、当然、省益や自分の将来に不利益にならないことを考えます。たとえば与党の政治家が次の総選挙で、「脱原発」と言うのは認めるが、「即ゼロ」と言ってしまう人間は電力業界として支援しないことにしよう。
原発事故の被災地の復旧・復興の財源を、事故を機会に原子力発電に課税することでひねり出してまおう。つまり実質再稼働するのを前提にしよう、などをメモにする。メモを作るというのは、有能なキャリア官僚なら必ずやりますよね。

古賀:福島第一原発事故のときに、『東京ブラックアウト』で描かれたメモと、そっくり同じじゃないけれど、まさにあったんですよ1枚紙が。「Yペーパー」と呼ばれるものです、確か。今、安倍官邸で総理を支えている人ですよね。この事故からどうやって原発再稼働をするかを書いたメモ。

若杉:何でしたっけ。大間と島根は動かす、とか、今、建設途上のやつは完成させて稼働させるとか、そういうようなメモですよね?

古賀:福島の原発事故直後で、まさにどうしよう!? どうしろ!と言っているときに、もうそういう、原発復活へのシナリオをメモにして作っているキャリア官僚がいたわけです。

若杉:私としては、キャリア官僚が考えることをそのまま書いただけなんです。
古賀:ところがそれが実は普通の人から見ると、とんでもない驚きなんです。そういう思いもよらないことが実際に起きているんだというのを知らないまま、表向きの世界だけを知らされて、新聞を読んで、テレビを見る。そして、ああ、やっぱり原発を動かすしかないのかな、いや、原発がないとやっぱり俺たちの生活は貧しくなるんだとか、本当に今でも思っている人がけっこういたりしますね。

若杉:集団的自衛権を認めないと北朝鮮との関係でやられちゃうとか、そういうふうに思わされちゃうわけですね。

安倍官邸にいる「優秀な」キャリア官僚たち

古賀:官邸主導でそう思わせる術が、すごくうまくなっていると思いませんか?昔に比べると。

若杉:そうですね。やっぱり霞が関から行った、官邸のスタッフが悪いやつらだけど優秀だっていうことなんでしょうね。

古賀:去年の9月に出した『国家の暴走』という本、サブタイトルは「安倍政権の世論操作術」にしたんですが、政権運営の中でも世論操作を非常にうまくやっているのが安倍政権だなと思うんですね。

今まで政権運営っていうと派閥のバランスとか、野党との裏取引とかが、大事な要素でした。ところが圧倒的多数を持っているので、いかに世論を操作していくか、という政権運営術が最近では小泉内閣に次ぐ、いや、むしろ小泉内閣を超えたと言って良いくらいレベルが上がったんだという感じがするんです。


若杉:おっしゃるとおりですよね。怖いですよね、本当に。経産省から官邸に来ている3人が、非常に仕事ができ るという意味では尊敬に値する。しかしちょっと方向感覚を間違っていませんかという意味では心配になる人たちがそろってますよね。そういう意味ではよりチームプレーでできているかもしれませんね、小泉内閣のときよりも。

古賀:そうですね。筆頭秘書官の今井尚哉さん、事務秘書官に柳瀬唯夫さん、内閣広報官の長谷川さん、この経産省キャリアたちはすごくうまく機能していて、その3人って僕が役所にいるときはもちろんだけれど、常にいろいろ議論したり、一緒に仕事したりもした、ちょっと恐ろしい人たちなんですね。しかも、今年は総選挙がなくなりましたから。


若杉:やりたい放題ですよね。それにしても今回の解散は永田町自体、ほとんどみんな騙されてましたよね。財務官僚も日銀の人たちも怒り狂ってましたよ。

古賀:そうでしょうね。特に日銀が、ぎりぎりでバズーカ第二弾で援護射撃したのに恥をかかされた。

若杉:消費増税のためじゃなくて自民党を勝たすために俺たちは騙されたんだという感じでした。

古賀:そこら辺はやはり、官邸の経産官僚が恐ろしいほど活躍しましたね。この調子で川内原発再稼働なんでしょうが、僕は無理やり統一地方選のあとまで延ばさせるんじゃないかと思っています。

若杉:そうかもしれません、佐賀県知事選で負けたりしたのが影響するかもしれませんよね、再稼働したら統一地方選も厳しいでしょうから。ただ、圧力を散らす可能性もあるんじゃないでしょうか。

古賀:集団的自衛権もあるから全部統一地方選後というわけにもいかない?

若杉:私は、川内原発の再稼働も工事計画の認可の遅れを口実に少し遅らせて、集団的自衛権の大騒ぎの裏でスルスルっと川内と高浜の再稼働をやるのかなあという気がしています。後はベルトコンベアのように続くでしょう。

官僚にとって安倍官邸の強権人事は恐怖

古賀:いずれにせよ再稼働しないという可能性は『東京ブラックアウト』に書かれているように、まったくありませんね??若杉さんは再稼働反対ではないんですか?

若杉:心情的には反対なんですが、今の安倍政権のもとでは、もう再稼働する以外の選択肢はないでしょうね。それは役人がどうということじゃなくて政治の選択として示されている以上、もう、そこの自由度はなくなっていると思います。

古賀:19兆円の請求書」の文書を出して核燃料サイクルを止めるべきだと主張した改革派官僚じゃないですけど、そういう人たちは今、いないんですか、私がリクルートしたくなるような。

若杉:いや、いないわけじゃなくて、息を潜めているということだと思います。やはり官僚だって当然、議会制民主制のもとで、政治からガバナンスされているわけなので、そのガバナンスの範囲の中でどこまで動けるかということだと思いますね。

古賀:歴代の政権に比べて安倍政権は怖いっていうイメージがありますよね。

若杉:ありますね。人事も含めて徹底的にやりますからね。

古賀:要するに何かやったら徹底的につぶしに来るだろうなと。お前、気をつけろよじゃ済まない。

若杉:官僚からすると、そういう怖さがありますね。

古賀:昔の自民党なんか、けっこう緩かったですよね。

若杉:自民党の中にもいろんな考え方の人がいて、ある先生との関係で問題が生じてもサポートしてくれる別の先生がいるとか、懐が深かったんです。けれども、いまは小選挙区制になったことと、なによりも安倍官邸が非常に強くなっている結果なんでしょうけれども、党内が金太郎飴みたいになってきて異論が許されないんです。自民党の中の議論の幅というのが、ものすごく少なくなってきていると思います。

昔だったら、別に河野太郎先生とか、村上誠一郎先生みたいに「原発反対」「集団的自衛権反対」と言ったからといっても、ああ中にはそういう先生もいるよな程度の認識だったと思いますが、いまや二人はものすごく異色、異端に見えているというのが残念ですよ。

「電力モンスター・システム」とは何か

古賀:やっぱり安倍さんの個人的なキャラクターが反映しているんでしょうね。一般民間人をツイッターやフェイスブックで、やっつけに行ったりするじゃないですか。一国の総理が個人攻撃をする怖さ。

たぶん官僚っていう人種はそういう勝負には、強くない人が多いでしょう。ということは、いわゆる原子力ムラのモンスター・システムは結局変わらず維持されるということですか?若杉さんが『原発ホワイトアウト』や『東京ブラックアウト』でリアルに書き続けている、「電力モンスター・システム」について少し解説してもらえますか。


若杉:「電力モンスター・システム」というのは、電力業界が政界への影響力を高めるための錬金術ですね。電力会社には総括原価方式という電気料金の決め方が法律で決まっていて、かかったコストから料金を決められるわけです。

浮かせた金を調達先などを使うことによって政治家に配ったり、広告としてマスコミに配る。金で政治を買っているということですね。それで民意が反映されなくなってしまっている。小説では、関東電力から日電連の常務理事に出向している小島が考案した仕組みですね。

古賀:かかったコストは全部料金に乗せていいという仕組みなので、電力会社は発電所をつくっても、日常的に資材を買っても、いろんなところで政治家やマスコミと飲食しても、全部いくらでも高く払える、その分料金に上乗せすればいいというのが総括原価方式ですよね。

普通の民間同士だったら100億円で成立する調達を全部120億円にして、高く発注してあげた20億円の超過利潤をプールさせて、政界工作、マスコミ対策用にそれを全部集めてくると、おそらく1000億円単位のお金ができてくるんだけど、それを全部電力会社とか、あるいは電事連とか。この本の中では……

若杉:日本電力連盟ですね。日電連が差配をして、この先生にいくらパーティー券を買ってあげる、いろんな広告とか幹部接待でテレビ局とか新聞社とか雑誌社にもお金が回る。

古賀:学者には「先生、研究してください」とか言って、どうでもいいレポートを1本書いてもらうと何百万円というお金が行って、いざというとき学者として原発を擁護してくれる。与野党問わず電力業界を応援してくれそうな落選議員は、ちゃんと大学の何とか講師とかを紹介する。あとは何がありますかね。どういうところにお金が回ってますかね。


若杉:そんなものですかね。「電力会社からの上納金だけでも日本電力連盟に年間400億円が渡り、電力業界全体では年間2000億円が自由に使える」と、『東京ブラックアウト』では書いています。

古賀:日本中、ありとあらゆる人が電力会社のおかげで生活しているというのが「電力モンスター・システム」ですよね。みんなで大臣のパーティー券を買ってあげていましたとか、電力会社の役員が個人で献金しましたとか、新聞にポロッと出ますよね。『東京ブラックアウト』にもリアルな例が紹介されていますし、去年あたり談合で、東電も捕まったし、関電も捕まってましたよ。

要は高く買ってあげるときに昔は全部、いわゆる随意契約。電力会社側が最初から高い値段で入札させてあげるっていう構図が公取が入って実際に摘発して、朝日新聞には大きく出るんだけど、それ以外は大きく出ないです。

若杉:あれだけの衝撃的な話なのに、ほとんど報じられませんでしたよ。

古賀:それで僕がわざわざツイッターでつぶやかなきゃいけない(笑)。ところが事故の後、東京電力はそういう変なことがやりにくくなって、コストを下げろ、ちゃんと入札しろと、調達を本気でやっていくうちにどんどん利益が出ちゃいました。

若杉: 4000億円も改善してしまいましたね。

古賀:一方で、総括原価方式があって、東京電力が何であんなに利益が出るのに関西電力はどうしてあんなに赤字なのか?

若杉:それはおもしろいですよね。本当は東京電力でやったのと同じことを、横展開すれば関西電力だって、どこだって、みんな原発なしでも黒字になるはずですよね。

古賀:関電は一生懸命やったふりをしているけれど、結局、原発依存度が高いから、その分ダメージが大きい。値上げすりゃいいやと思っていたら「値上げするなら、給料削れますか?リストラしますか?」という社会状況になってきた。そうすると官僚の側では天下りで関西電力に行った人の給料もカットするということになって、天下りに行ってる先輩がかわいそうだ、電気料金はあげにくいなあっていうことも考える。

若杉:それから政治に回っている金も動かせるから、政治との関係でもリストラやコスト削減が許されないでしょうね。

古賀:そうですね。電力モンスター・システムで養われている政治家から、お前、何やってんだ。何、勘違いしてるんだっていう話になっちゃうんでしょう。だから関西電力は赤字のままなんでしょうね。