首相補佐官が米国批判の波紋オバマ大統領「来日中止」危機

2014220日 日刊ゲンダイ


 親分が親分なら子分も子分だ。昨年12月の安倍首相の靖国参拝に「失望」を表明した米国に対し、衛藤晟一首相補佐官が動画サイト「ユーチューブ」上で「むしろわれわれの方が失望だ」と批判した問題。19日午後になって衛藤は慌てて発言を撤回したものの、米国はカンカンだろう。オバマ大統領の4月来日の雲行きも怪しくなってきた。


 問題の発言が投稿されたのは16日。この中で衛藤は「米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか。米国はちゃんと中国にモノが言えないようになりつつある。声明は中国に対する言い訳に過ぎない」と持論を展開。さらに昨年11月に訪米した際、ラッセル米国務次官補らに靖国参拝への理解を求めた上、12月初めには在日米大使館を訪れて「(参拝に)賛意を表明してほしいが、ムリなら反対しないでほしい」と要請したという。


 これにはア然ボー然だ。A級戦犯が合祀されている靖国参拝に「賛成しろ」と米国に求めること自体、トチ狂っているし、首相補佐官という内閣の要職にある政治家が、外交のやりとりや内幕をバクロするなんて、あってはならないこと。金輪際、衛藤と大事な話をする国はないだろう。


 元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。
「首相補佐官は内閣の一員であり、評論家などとは違います。発言が『個人的な見解』で済まされる立場ではないのです。しかも、衛藤氏は日本側の窓口として米国と意思疎通を図ってきた人物。つまり、米国は衛藤氏を安倍首相の代理とみていたわけです。その衛藤氏が大っぴらに米国批判したわけで、非常に深刻な問題です」


 衛藤は、安倍が会長を務める超党派議連「創生日本」の幹事長だ。安倍の側近で「お友達」のひとり。この議連は「保守の結集」や「戦後レジームからの脱却」を掲げる右翼集団である。17日付のワシントン・ポストは「日本の挑発的な動き」と題した論説で、靖国参拝した安倍首相が強硬なナショナリズムに転じているとして、アジアの安全保障問題を深刻化させていると批判していた。


 また、米紙ウォールストリート・ジャーナルは19日付の電子版で、安倍の経済ブレーンの本田悦朗内閣官房参与をインタビューした記事を掲載。本田が靖国参拝した安倍を「勇気を高く評価する」と称賛したとして、本田を「戦時中の話を熱く語るナショナリスト」と紹介している。


 衛藤、本田の発言は、米国から見れば日本だけが正しいと叫ぶ「右翼内閣」の一員が本性をムキ出しにしたと映るのは確実だ。


 衛藤は当初、「(発言が)問題になることがおかしい」と突っ張っていたが、午後になると一転、発言を撤回した。菅官房長官に発言取り消しを指示されたためだが、時すでに遅しだ。岸田外相が拝み倒してようやく実現したオバマ大統領のなんちゃって来日もパーになる恐れは十分ある。


「オバマ大統領の来日取りやめという事態になれば、安倍首相は終わりです。同盟国と話ができない首相は退陣するしかありません。衛藤氏の発言の影響は大きいのです」(孫崎享氏=前出)


 衛藤を更迭したぐらいでは、問題は解決しそうにない。