東京都知事選で脱原発を争点にした細川護熙、小泉純一郎の元首相コンビに圧勝し、高笑いが止まらない安倍晋三首相(59)。
 
過去最大のジャブジャブ予算を審議中の今国会でも無敵だ。そんな中、税金で東電の莫大な借金を肩代わりし、原発を再稼働させ、焼け太らせて資金回収を狙うという驚くべき救済計画がひそかに動きだしていた。 
集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を巡り、国会で「最高責任者は私だ」と放言した安倍首相。これらの問題に隠れ、あまり報じられていないが、今国会における安倍自民党の鬼門は、福島第一原発の事故処理費用の多くを国家予算で肩代わりする東京電力の「救済計画」にある。 
まず、2014年度の予算案で、東電が賠償金や除染費用を滞りなく支払えるよう東電に無利子で渡している公的資金の上限枠を、現在の5兆円から9兆円にまで引き上げる。金利は国で全負担するため、新たにその資金として225億円も積み増す。
 こうした手厚い処置は、東電が原発事故被災者らに支払う賠償金が5兆円を超えることが確実となり、除染などに資金が回らなくなってきたため、国が関与を強めたのだ。 
そして国は東電に代わり、除染で取り除かれた汚染土などを長期間保管する「中間貯蔵施設」の土地を買うために1012億円も計上した。施設の完成には合計1.1兆円がかかるとされるが、国民の電気料金に上乗せされている「電源開発促進税」で30年かけて国が肩代わりするという。その上、除染作業や放射性廃棄物の処理にも3912億円を投入するという大盤振る舞いだ。 
「14年度予算案で東電への支援が、除染だけではなく中間貯蔵施設などへも一気に広がりました。税金の投入がこの先、際限なく膨らむ危険性もあるが、これら予算は官邸、経済産業省の主導なので、財務省は意見を言いにくい」(財務省幹部)
 政府の建前は、これらの巨費は本来、東電が支払うべきもので、一時的に肩代わりしているにすぎないというものだ。だが、事情を知る財務官僚は、東電への不信感を隠さない。 
「東電は被災者への賠償金は払うが、本音では除染と中間貯蔵施設の費用は政府に出してもらい、大半を踏み倒したいと考えているようだ」これまで政府が東電に請求した肩代わり費用は約404億円。そのうち返却されたのは197億円にすぎない。しかも、未払い金をいつ支払うのか、東電は明らかにしていないのだ。 
「事業が終わった後に政府から東電に請求書を送っているが、理由をつけては支払いを拒んでいるようです」(前出の財務官僚) 
除染や中間貯蔵施設などの巨費の大半を東電が踏み倒せば、結局は我々の血税で穴埋めされることになる。東電救済に流用されている資金はこれだけではない。いずれも東電の原発事故被災者を支援する内容だが、これらの費用も東電に代わって国が予算を付けて支払う。 
復興庁の担当者は言う。「除染に関係して東電に請求できるものは、汚染土を取り除いて集め、仮置き場に持って行く作業に限られることになりました。それ以外は『除染』に該当しないのです」 例えば〈帰還困難区域の入域管理・被ばく管理等〉は、帰還困難区域の境界に人員を配置して、バリケードの開閉などをする。原発事故がなければ存在しなかった仕事だが、これも東電が費用の負担をすることはないのだ。 
〈長期避難者生活拠点形成交付金〉は、原発事故被災者が避難先でもこれまでと同じような生活ができるよう、道路や学校などを整備する事業だ。東電が費用負担すべきものに思える。 だが、財務省担当者は、「避難者の生活に関する事業は『福島再生加速化交付金』から支出されるので、東電に請求はしない」と話す。福島再生加速化交付金は昨年12月に新設された制度で、14年度予算案で1088億円が計上された。 
交付金の使途は、個人線量計の配布や生活用水の確保、子どもたちが安心して活動できる室内運動施設の整備などだ。これらの財源は我々が13年1月から支払っている復興特別所得税などで賄っている復興特別会計だ。前述した除染や中間貯蔵施設の費用も合わせると、14年度の復興特会の原子力災害関連予算案は6523億円にのぼる。 
無論、これらは福島の復興に必要なものばかりだ。だが、結果的に東電支援に“流用”されることになり、同社の責任があいまいになってしまっているのだ。なぜ、このようなことが起こるのか。インサイダー編集長の高野孟(はじめ)氏は、その理由を説明する。「そもそも日本の原子力発電事業は、政府と電力会社の責任と役割分担があいまいで、“国策民営”と言われてきました。だから、事故が起こるとお互いに責任をなすりつける。基本的に無責任体制なのです」 
無責任体制を象徴するかのように、政府は肩代わりした巨費を、原発の再稼働によって黒字化させ、焼け太らせた東電に返済させようという「スキーム」を進めている。政府は、東電には直接資金提供をせず、原子力損害賠償支援機構(原賠機構)を通じて資金の提供や出資をしている。前出の財務省幹部は、そのカラクリをこう説明する。 
「安倍政権は、新しい『エネルギー基本計画』をまとめようとしています。そこでは、原発を重要なベース電源と位置づけ、原発の再稼働を前提にしています。再稼働によって東電を黒字にし、原賠機構が保有する東電株の値を上げ、その売却益で投入された税金を取り戻すというスキームです。経産省が描いたシナリオですが、そう簡単にいきますかね」 
原賠機構が約1兆円を使って保有した東電の株式は19億4千万株(昨年9月30日現在)。これは、東電の全株式の約55%にのぼる。現在の株価は450円程度だが、再稼働により、震災前の株価2千円程度まで上昇すると、単純計算で約3兆9千億円になる。それを売却して、事故対応の費用弁済にあてるつもりだ。だが、今後、どんな事故に見舞われるか予測できず、「絵に描いた餅」になりかねない。 
そんなことはお構いなしに東電救済に前のめりな安倍政権は、事故を起こした原子力発電所の廃炉作業にも税金を投入できるよう準備を進めている。政府案では、現在の原賠機構を5~6月に「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」という名称に改める。 そして4月から東電で社内分社化される「廃炉カンパニー」と協力し、関与を深めるよう、今国会中に原賠機構の改組に必要な法案を提出するつもりだ。 
元経産省官僚の古賀茂明氏は言う。
「今回の最大の問題は、廃炉、中間貯蔵施設、汚染水処理などにこれから、何十兆円の税金を注ぎ込むだけでなく、そこに巨大な利権構造をつくり、それを経産省が握る。その土台ができることです。東電の借金を国が肩代わりし、つぶさないというスキームは公共事業と同じような構図です。東電、経産省が事故の責任を取らないどころか、これまで以上に焼け太る図式なのです」「復興」の名の下に、なし崩しで私たちの税金が東電に流れ込む。政府は原発再稼働による資金回収を目論むが、その一寸先は闇だ。